2011/11/05◆常識やイメージのウソ

代表幹事の坂井昭彦です。

TPPの話題に関連して最近TVなどで報道される言葉の中でひとつ気になるセンテンスがあります。それは「自由貿易は良いものだ」といったフレーズです。それも「何でもかんでも全て自由化すべきだ」みたいな論調があるのが非常に気になるところです。

「自由」と聞くと何だか良いモノをイメージしてしまうのは人間の性ですが、人間から理性というタガを外すと欲望のままに生きるただの動物になり、動物として欲望のままに生きると、結局は弱肉強食の世界になる、といった例えを出すまでもなく、「不自由(規制)」というタガをはずした世界で「自由」を享受できるのは、実は強者だけです。

新自由主義なんて言葉を出すと、意味を知らない人は「新しい」しかも「自由な」主義なんだな、ああ、なんてすばらしい響き!みたいに思うかも知れませんが、中身を見るとスプラッタ映画そのままの残虐な弱肉強食の世界が広がっている、といった具合に、言葉は時として脳天気で何も考えていない人間の淡いイメージや期待をいとも簡単に裏切ります。

そもそも、自由貿易が良い、なんてのはウソです。というか、かなり舌足らずです。

自国に強みがあるモノ、守らなくても良いモノ、に関しては、関税その他の制約を撤廃して自由に取引が出来た方が良いし、自国に強みがないモノ、守らなければならないモノ、に関しては、関税その他の制約を駆使してできるだけ自由に取引させない方が国益に叶うのであって「何でもかんでも自由にすればいい」なんて言っていたらそれこそ世界中の国から「なんて馬鹿な国なんだ」と笑われます。

TPPの話なども同じですが、交渉事の世界ってのは、表向きは「全部自由にしましょう」などといったキレイゴトを並べて、その気になった相手に武装解除をさせておいて、実は、自分の武装は部分的にしか解除しない、といっただまし討ちの世界であるということを、もっと日本人は認識すべきです。

「これだけ相手のためを思って礼を尽くしているんだから相手も応えてこれるだろう」などといった日本の美徳は残念ながら通用しません。(もちろん日本に於いては今後も尊重されるべきだし、世界にも広めていきたいとは思いますが)

言ってみれば、腹をすかせた野生のライオンの前に裸でつっ立って「私もお腹がすいているけど、私の持っているパンを半分あげるから、私を食べないでくれ」などと間抜けなことを言っているようなものです。

これは何もTPPや貿易に限った話ではなく、グローバルに何らかの規則や規制を作る場合には同じことが言えます。我々の身近なところの話で言えば会計基準、ITの世界ならOSやプロトコルなどの規格の統一など、いわゆる「標準化ビジネス」の世界、あるいは医薬品や工業製品などにおける特許や著作権などのいわゆる知財知的財産権)の世界などでは、主導権を握って自国や自社の利益を追求したいといった思惑が色濃く表れていて、武器弾薬こそ使いませんが、明らかに「戦争」をやっている訳です。

てなわけで、のほほんと平和ボケしていられる豊かな時代ではなくなったんだということをもう少し認識すべきだと思う今日この頃です。

坂井昭彦@既に弱者になっているのにまだ強者のつもりでいるところなんかもイタいですが、ま、希望は必要です。

p.s 規制は弱者保護のために存在する。弱者でも自由を享受できる社会が良い社会なのだというコンセンサスのもとに存在する。規制を全てなくせというのは強者の論理。本物の強者がそれを主張するのはわかるが、弱者に毛が生えたような人間までが、強者がTVなどで垂れ流しているイメージを鵜呑みにして、また、自分は強者だと思い上がって、あるいは自分には関係ないと思い込んで、規制をなくせと叫んでいるのを見るとなんだかなと思わずにはいられない。