税理士法改正の追加3項目について

みなさんこんにちは!代表幹事の坂井昭彦です。

税理士法改正については平成22年6月に公表された日本税理士会連合会税理士法改正特別委員会(PT)の「税理士法改正に関する意見(案)」*1に掲げられた14項目に加え、新たに3項目が追加になり、17項目の「税理士法改正に関する意見(案)」*2を最終案として財務省主税局及び国税庁との勉強会が開催されることになりました。

全国青年税理士連盟でも7/11日付でこの追加3項目に対する意見書を出しておりますので、そちらもご参照頂ければと思うのですが、その上で、私個人的なコメントを少々書いておきます。

[追加3項目の全体的な印象]

最初にこの追加3項目の話を聞いたのはいつだったかちょっと忘れましたが、漠然と感じたファーストインプレッションはどうも食指が動かないというか、あまり関心がないというか、なんだか場当たり的な対応だなと感じていたくらいであまり感想はありませんでした。

以前、日本税理士会連合会の執行部との懇談会で税理士法改正の話をしたときは、池田会長は、実害や緊急性がないとなかなか法改正は難しいといったニュアンスの話をされていたように思うのですが、今回、追加になった3項目にどれほどの実害や緊急性があるのだろうか?と、漠然と思ったのを思い出します。

また、この3項目が入るのであれば、当然に、第一条の使命条項の見直しについても盛り込むべきではないのか、とも思ったのを覚えています。(で、その思いが6/27の近畿税理士会定期総会での私の質問に繋がっていくわけです)

というわけで以下、全青税で意見書を作成する際に、私がメールで意見表明した内容を少し編集して掲載しておきます。

1.事務所の設置基準の見直し

あちこちから漏れ伝わってくるところによれば、これってニュージーランドだかオーストラリアだか知りませんが海外在住の税理士が日本に事務所を構えていることを問題視して設置されることになったと聞いていますが、どうもピンと来ません。

海外在住の税理士がたくさん続々増えているのであればいざ知らず、日税連が良く言う「実害」はどこにあるのでしょうか?「緊急性」はどこにあるのでしょうか?

私個人的にはこの改正があったところで痛くもかゆくもないし、老後を海外で優雅に暮らしながら事務所は無資格者の従業員任せで偽税理士行為を放置しているような税理士がおればピンポイントで爆撃してとっとと廃業させて欲しいと思わないでもないですが、この改正に賛成するか?と問われればちょっと考えます。

業務自体もskypeで会議したり、税務相談したりする時代なので、ホンマは事務所の定義も、もう一度きちんと議論しなければならない時期に来ているのではないかと思います。

私は事務所はざっくり言えば「納税者がそこに来れば税理士のサービスが受けられる物的施設・納税者にわかりやすく門戸を開いた窓口」をいうと考えておりますので、どこで仕事をしていようがそんなもんは二箇所事務所の判定には関係ないと思っています。

例えばその海外にいる税理士が、事務所は日本に設置して「ウチはskypeによる電子相談とメールでのやりとりだけで業務を行います」といった方針で事務所運営をされている場合、それは納税者の利便を必ずしも損なうことにはならないと思いますし、電子申告を推進している昨今において、取引データや証憑書類などもメールでやりとりをしているケースは多々あるので、別に取り立てて目くじらを立てる問題でもないと思います。

また、税理士法人でも支店を出す際には常駐の税理士をおかなければなりませんが、その支店で取り扱う、あるいは支店の周りにいるクライアントの税務は全部その支店に常駐している税理士が処理しているのかどうかなんてことは実際問題、わかりません。場合によっては支店には「カネで雇った実務能力のない有資格者(ハンコ税理士)」をおいて守備範囲を広げ、実際の処理は中央でやるなんてこともあるかも知れません。

というわけで、本当のところは何がミソなのか、この問題の本質は何なのか、考えてみました。

結局は、税理士が海外にいて事務所を日本に置いた場合に

1) 従業員を使っていて偽税理士行為が行われている場合はアウト!

2) 海外に住んでいることを理由として税務支援への従事から逃れる等の
  会員としての、あるいは税理士としての法律上、規則上、あるいは倫
  理上、道義上の義務(?)を全く果たさないような輩には喝!

というくらいの話ではないのかなと。

もしかしたら規制改革がらみの話で、海外の税理士・公認会計士が海外にいながら日本の従業員を使って仕事をさせ、いわば「資格を持っているだけで日本からうまい汁を吸い上げて行く」ことに対抗するためにこれを入れておくんだ!なんて話があるかも知れませんが、どうもそのへんまでいくと私の妄想っぽいですよね。

結局の所、本来はピンポイントで偽税理士行為を立証してお縄にすれば良いところ、それができない(できない=怠慢も含む)ので、こんな変な、税理士を事務所周辺に縛り付けるような改正案になっているんじゃないかという気がします。

というわけで、私はあまりこれには賛成したくないですね。

そもそも、「住所から合理的な時間の範囲内で通うことができる場所」という場合の「合理的な時間の範囲内」って何?という部分の具体的な基準も示されず、登録調査時に適宜決める、みたいな裁量を許すのはどうも腑に落ちません。あと、あまり憲法の話など持ち出したくはありませんが、憲法第22条第1項には「何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。」とありますので、このあたりとの整合性はどうなのか?

端的に言えば

合理的な時間の範囲内で通えなければ「公共の福祉に反する」のか?
こんなもんを税理士法で定めるのは憲法違反ではないのか?

といった問題も惹起する可能性がありますが、そのあたりの検討はされたのか?ということです。

もちろん、事務所を住所から通える範囲に設置しろと言っているだけで、直接的に住所を制限しているわけではないですが、多くの税理士事務所はクライアント利便なども考慮すると通常はクライアントの近くに設置することになると思うので、こういった規定が税理士法に入ると、結局はクライアントの近くに住むことまで法で強制されるのと同じことになります。

というわけで、そのあたりちゃんと整理した上で改正項目に入れたの?というのがもっぱら現在の疑問点です。

要するに、税理士といえども人間なのだ、日本国民なのだ、ということを忘れているような気がします。

2.会費滞納者に対する処分の強化

これに関しては特に反対することもないかなとは思ったのですが、強いて言えば

1) 税理士会は会費滞納者に対してきちんと督促その他の法的手続をとること。
2) その法的手続にかかった費用も同時に徴収すべきこと。
3) 滞納者から滞納の理由を聴取し、登録抹消の判断においては、その理由も
  十分考慮すること。

を盛り込むべきだと思いました。

会費払わん奴は悪いし、会費を払えない税理士なんかいらん。

と単純に割り切れれば良いのですが、世の中個々のケースではどんな事情があるかわからないし、業務ができなくなれば当然、払いたくても会費を稼ぎ出せないといった状況に陥るわけなので、そのあたりは慎重に、ヤカラかそうでないかをしっかり見極める必要があろうかと思います。

滞納者のことをそこまで考えてやる必要はない、と言われるかも知れませんが、私自身、貧乏税理士なので、どうもそのあたり気になりますし、今は会費がまあ、そこそこ安い(こともないけれど)から問題にはならないかと思いますが、今後、弁護士会のように月5万だ!とか言い出した場合に、この規定が重くのしかかってくるような気がします。

もちろん「その程度の会費払えない奴は撤退したらええんや」という考え方もありますが、だんだんそのうち大きい税理士法人しか残らない世界になってくるのかなという気もチラホラしている今日この頃です。

会費の値上げに関しては従来から、会費をもっと高くして独自事業*3で税務支援をやって、それを若手会員が受ければ若手も潤うし万々歳だ!といった考え方があったりするので、賛成論も多いのですが、これは、若手が十分にその仕事の割当を受けることができる、ということが保証されていなければ話は全然違ってきますので、いろんな前提をクリアしなければならない話だと言うことも頭の片隅においておく必要があります。

てことで、今だけを考えて賛否を考えるのは禁物だということで、これについても積極的な賛成はしたくない気分です。

そもそも、この改正にも「実害」「緊急性」いずれもないような気がします。

「実害」はあくまでも対国民の話だと私は理解していますし、「緊急性」の面でも、今手当てしなければならないほどそういったヤカラが増えているのかどうか、今後増えそうなのかどうか、実数を挙げて説明して欲しいところです。*4

とにかく、しばりを強める改正には何らかの意図がある、それは今ではなく将来のことかも知れない、とか考えた方が良いかと私は思います。税務支援従事や研修義務化と同じ流れで「義務をあえて強化することで何らかの効果を期待する」対策の一環かも知れませんが、若手の税理士もその対策に巻き込まれて消えてしまうようなことがあってはなりませんので、意見は慎重に。

3.臨税制度の見直し

これについては私は基本的には賛成なのですが、臨税にしろ課税庁にしろ、今までは、本来は税理士に有償で振るべき納税者に対してもタダで過剰なサービスを提供していい顔をしておいて、それが財政上の問題で出来なくなったら手じまいして、ハイ、あとは税理士さんやって下さいね、タダで!と言われて尻ぬぐいをさせられている、といった部分もあるような気がするので「ちょっと待ったぁ〜!」と「待った」をかけたいというのが本音です。

基本的に課税庁の職員も臨税の職員もボランティアではなく給料をもらってやっています。税理士だけタダでやらされるってのはおかしいのです。(独自事業も自前で自主的にやる事業だからいいことなんだ、という風潮がありますが、必ずしもそうとばかりは言えないのは前述の通り)無償独占だから無償で、みたいなノリは単なる語呂合わせで本来何の意味もありませんし。

というところでちょっとわかりにくいかと思いますので、簡単な寸劇で言いますと、

単に税務署や臨税の後を引き継いだ場合は

(確定申告会場にて)

納税者「ほな今年も譲渡の申告よろしく!」
税理士「いえ、譲渡は受け付けていません」
納税者「なんでやねん!去年までは書いてくれてたで」
税理士「去年までは税務署(又は臨税)がやっていたので書いてくれたかも知れませんが、今年からはダメです」
納税者「なんでやねん、おたくら税金でメシくっとるんやろ!」
税理士「違います。我々は税理士です」
納税者「なんじゃい!税理士がなんぼのもんじゃ!お高くとまりやがって!帰るわボケ!」

と、税理士が悪者になります。

ここで「ちょっと待て!お前ら後始末していかんかい!」ということで税務署や臨税に責任をとらせるワンクッションを置いて欲しいというのが私のささやかな希望です。

例えばこんな感じ。

(確定申告会場にて)

納税者「ほな今年も譲渡の申告よろしく!」
職 員「いえ、譲渡は受け付けていません」
納税者「なんでやねん!去年までは書いてくれてたで」

職 員「去年まではホンマは書いたらあかんのに書いていたんですが、そこはちゃんとしようということになって、今年からはダメになったんです。来年はもう我々自体がここにはいません」

納税者「なんでやねん、おたくら税金でメシくっとるんやろ!」
職 員「そうですが、だからこそ、本当に支援が必要な方のために我々の力を注がなければならないんです。わかってください。」
納税者「なんじゃい!公務員がなんぼのもんじゃ!お高くとまりやがって!帰るわ!」

税理士「そこな納税者のお方、ちょいとこっちに寄っていきなせい」
納税者「なんじゃい?ん?あんたら何や?」
税理士「譲渡の申告、お引き受けしましょう。ただし有償ですが」
納税者「なんでやねん!お金いるんやったらいらんいらん、わからんけど自分でやるわ」
税理士「そうですか、ああ、もったいない、もったいない」
納税者「何が?」
税理士「いえ、もったいないなあと思って」
納税者「だから何が?」
税理士「社長ほどの力量の方が申告などと言う畑違いのことに労力を割くより、我々にぽいっとまかせて、その時間を本業に使われた方が100倍もうかると思いますのに」
納税者「え?ほんまかいな」
税理士「はいな、ああもったいない。それもそんなに申告にお金はかかりません。社長の儲けからすればほんのミジンコ程度!」
納税者「ほほほ、そうかいな。まあそうやわな。ほな、たのもか?」
税理士「さすが社長!太っ腹!まいどありがとうございまする〜!1名様、ご案内〜!」

てな感じかな。(をい)

とまー、前置きはこのくらいにして、本題。

臨税の廃止は関西圏にいるからか正直なところあんまりピンと来ていません。一点だけ気になるのは農協などは廃止するけれども地方公共団体の職員は残すという点です。

ケースはちょっと違いますが、秋田県仙北市と合併前の旧角館市で行われていた市職員による不正還付事件などの記憶が新しい私にとっては、地方公共団体もどうよ?とか思ってしまいます。

(参考URL) http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/110218/crm11021822290038-n1.htm

地方公務員の職域だけは「身内の特権」として残しておきたいということかも知れませんが、地方公共団体も含め税理士法上は全部廃止して、経過措置で税理士会側の体制が整うまでの間、限定的に存続させれば良いだけではないかと考えます。

あと、もう一点疑問に思ったのは、改正要望項目に臨税の許可件数の通知が盛り込まれていることです。

逆に言えば現時点では通知されていないということだと思いますので、それならば本当に臨税が必要なのか、不要なのか、廃止しても税理士過疎の地域への税理士の派遣だけでまかなえるものなのか、といった数値的な根拠はどこから引っ張ってきたのか?そもそも何か根拠のあるデータに基づいてこの改正案を提案したのか?という疑問が残ります。

また、この件についてもやはり関西にいると「実害」「緊急性」いずれも実感がわきません。今後「年金所得」の「年末調整」が導入されると確実に申告件数そのものが減るでしょうし、臨税も自然に減るのではないかという気もしています。

というわけで、臨税の廃止には賛成なのですが、一部権益を残すようなところには疑問があることと、廃止に伴い、国民や税理士に不利益や負担を強いるような結果にならないよう十分配慮して意見要望を挙げていただきたいとうのが個人的な感想です。

坂井昭彦@事務所に関しては私は定義自体を見直す必要があると考えています。

p.s 税制も税理士法も現行制度を是として考えるだけではなく、現行制度を非として考えてみることも重要です。(両面から考えなければ「あるべき姿」は見えてきません)

*1:会員専用ページ:http://www.nichizeiren.or.jp/taxaccount/archive/doc/houkaiseiikenan100624.pdf

*2:会員専用ページ:http://www.nichizeiren.or.jp/taxaccount/archive/doc/houkaiseiikenan110421.pdf

*3:という名の、実は課税庁から謝金を全くもらわずに完全無償で奉仕する下請になる可能性もありますが。

*4:イメージだけで物事を考えると引きずられます。データ(統計)だけでもまあ、統計のマジックに騙されることはありますが。