2011/11/02◆公認会計士待機合格者問題-金融庁アクションプラン再改訂

本日11/2に金融庁のホームページにおいて「公認会計士試験合格者等の育成と活動領域の拡大に関する意見交換会当面のアクションプランの再改訂について」が公表されました。

公認会計士の待機合格者問題は、そもそも論を言えばサービス業の規制緩和と言うことでGATSなどによる主に米国からの会計資格や法曹資格の解放要求に端を発し、これに呼応して(というか言いなりになる形で)「司法制度改革」だとか「公認会計士制度改革」と称して、要は、有資格者の数を増やし、資格の価値を希薄化し、その過程で資格試験自体もそのレベルを下げることによって「ほら、日本の弁護士や会計士のレベルも米国の弁護士や会計士と大差ないレベルじゃないか、じゃあ、相互参入してもいいよね」という口実を米国に与えるためになされてきたものだという説もあるように、規制緩和の話(昨今で言えばTPPですね)と切っても切れない関係にあります。

で、まんまとその手に乗って数を増やした結果、食えない弁護士(イソ弁→ノキ弁→タク弁)や、公認会計士にすらなれない「待機合格者」を生み出している訳で、そもそも論をきちんとおさえずに「米国の言いなりになって増やしたら待機合格者が出た」「どうしよう」みたいなレベルの話をしている段階で個人的にはアウトです。

いや、待機合格者に罪はないんだ、だから何とかしてあげないといけないんだ。

と言われるかも知れません。確かにそれはごもっともな話なのですが、それならまずは待機合格者の皆さんの前で金融庁は土下座して謝れ!お前らの私財を投じてでも何とかしろ!と言いたいところです。(いえ、もちろんそんなこたー心の中で思うだけで、言ったりはしませんが)

とまーそれはさておき。

[アクションプラン再改訂の内容]

金融庁のホームページには再改訂のポイントとして3つの項目に分けて説明されています。

1. 中小監査法人における有期雇用等による監査業務の補助に係る枠組みの整備
2. 経済界における合格者の更なる採用の呼びかけ
3. 実務従事の対象の拡充

1.のポイントとしては、

●中小監査法人において、合格者を有期雇用し、又は業務委託契約を締結して、監査業務の補助を行わせる枠組みを整備

とあり、要は、監査業界内での対策として、大監査法人は既にアップアップしているから定期採用をしていない中小の監査法人にも「腰掛け就職」に協力してもらって、とにかく公認会計士の資格を取得するための実務経験を積ませようということのようです。

ただ、これでは即戦力を必要とし、資金力もそんなに余裕がない中小の監査法人にはメリットがありません。やっと仕事を覚えた頃に「じゃ、公認会計士になれましたので、大手監査法人に行きます」なんて言われた日にゃ踏んだり蹴ったりです。

待機合格者についても、「腰掛け就職」で実務経験を積んで公認会計士の資格は得られるかも知れませんが、あくまでも有期雇用が原則で「その先」は用意されていないと言うことのようですので、今度は「待機合格者だった公認会計士の就職難問題」が発生する恐れも大です。

ちなみに「公認会計士になったんだから税理士法の3.1.4により税理士業務ができる、だから後は税理士業界でがんばってくれ」みたいな話になると、税法のことをほとんど知らない、勉強もしていない、公認会計士としての経験もほとんどない、未熟な公認会計士が、金融庁の失策により税理士業界になだれ込んできて納税者に不測の損害を与える可能性が高まってしまう、という結果を産みます。

国家資格制度は国民を守るために存在するのであって、国民を危険にさらすためにあるわけではないのです。

これってどう考えても本末転倒ですよね?

そもそも、公認会計士を目指す受験生の多くは公認会計士として監査に従事することを目指しているのであって、監査業界ではないところに追いやられるためにわざわざ難しい試験を突破してくるわけではないと思います。

監査業界で継続的に働くことができる環境を整えること、例えば、それこそ日本の監査法人から世界に向けて優秀な人材をどんどん「輸出」するといった方向性で改革案が述べられておれば「おお!金融庁も本気やな!」と思えますが、なんだか小粒の改革案でちょっとがっかりです。さらに言えば、大手監査法人を守るために周辺に無理を強いているような感じがなきにしもあらずなところもかなり「残念」ですね。

2.のポイントとしては

●経済団体や証券取引所の協力を得て、PRチラシの配布や、EDINETや各種団体のサイトのトップページへの掲載を通じ、経済界に対し、有期雇用やコンサルティング会社等において財務分析に関する事務を行う場合であっても資格取得が可能であることを周知し、合格者のさらなる採用を呼びかけ

●併せて、証券取引所の協力を得て各企業に対してアンケートを実施し、合格者の採用実態等を把握

とありますが、前者については、経済界に対し「待機合格者に経験を積ませて公認会計士にさせてやってくれ」と言っているわけですよね。先ほどの中小監査法人と同じく、わざわ待機合格者を受け入れて、資格を取得したら出て行ってしまうかも知れない人間に仕事を与えて、一体何のメリットがあるのか疑問ですね。補助金でも出すのでしょうか?後者についてもアンケートをとってどうするのかが明確ではありません。合格者の採用を義務づけるとか、建設業の経営審査みたいに有資格者の関与義務づけを促進するようなインセンティブでも法制化するんでしょうか?

3.のポイントとしては

●資格取得の要件となる実務従事の対象を、開示会社、開示会社及び資本(出資)金5億円以上の法人の連結子会社(海外の子会社も含む)において、原価計算や決算書類作成等の財務分析に関する事務を行う場合や、国及び地方公共団体において検査等以外の実務(財務分析)を行う場合にも拡大

●実務に従事する場合の雇用形態について、正職員以外の場合も排除されないことを明確化

とありますが、なんだか簡易な財務分析の部署を作って安価でアルバイトをさせて「実績」を積ませるという構図が透けて見えます。実務従事要件を課している制度本来の趣旨を形骸化させることになりますので、かなり問題があると個人的には考えます。

閑話休題

待機合格者に罪はないんだ、だから何とかしてあげないといけないんだ。

と言えば何となく正しいことを言っているようなイメージがあるかも知れませんが、これは、

そもそも公認会計士制度は誰のためにあるの?

という原点に立ち戻って考えるべき問題だと私は思います。

しっかり監査をして、投資家の保護をはかる。

それが公認会計士に与えられた社会的使命です。

試験を易しくしたり実務要件を緩和したりすることは「しっかり監査する」という部分に問題を生じさせることになり、結果、制度目的である投資家の保護がはかられなくなる恐れがあります。

経済界で会計のことがわかる人間が活躍すべきだ、経済界は会計のことがわかる人間を活用すべきだ

というのは正論ですが、それは、公認会計士制度とはまったく別の次元の話です。

企業が内部統制に対応しなければならないのであれば内部統制の専門資格を作って専門サービスを受けられるように制度設計すれば良いだけの話ですし、IFRSについても同じです。

制度上も、実需の上でも、何ら要請がないことまで、何でもかんでも公認会計士がやろうとするところに無理があり問題がある(※)のであって、待機合格者についても、本来の業務である監査制度の枠組みの中で解消を図らねば根本的な問題解決に至らないことは自明の理です。

※ それがゆえに「企業財務会計士」法案は廃案になったのではなかったかと。

日本一頭の良い人が集まっているはずの霞ヶ関で、何でそんな簡単な話がわからないのか、あるいは、通らないのかが、私には疑問です。

坂井昭彦@小手先の対応では傷口を広げるだけです。